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バリキャリ女の弱点 Page1

last update publish date: 2026-07-24 12:40:44

「――お世辞はやめてよ、冴島くん。どうせ本心ではメイクも色気ないって思ってるんでしょ?」

 私、本当に可愛げがない。彼が平気で相手にお世辞やおベンチャラを言えるような人じゃないと、本当は分かっているはずなのに……。こんなことだから今まで、好きになった男とは上手くいかずに好きでもない男とズルズル付き合ってきたんじゃない。

「いえいえ、茜さん。お世辞なんかじゃないですって。僕、本心からそう思ってますよ。茜さん、ホントに肌キレイだなって。ご自分では『色気ない』とか言ってますけど、毎日肌のお手入れだけには手を抜いてないからなんじゃないですか?」

「……いや、別に特別なことは何も……。ただ、お風呂に入ってる時に必ず洗顔してるくらいで。下手に化粧水とかつけるとかえって荒れちゃうのよ」

 メイクに目覚めた頃に、使っていた化粧水が肌に合わなかったのか酷く肌が荒れてしまい、デパートのコスメ売り場で美容部員の人に相談すると肌が弱いことが分かった。金属アレルギーなのもそのせいではないか、と。

「自分の肌に合ったケアをしているのも、女子力が高い証拠だと思いますよ。背伸びをしなくても、それだけキレイな肌をキープできてるんですから」

「そう……なのかなぁ? 私なんてもうオバサン一歩手前だし、特に化粧っ気けもないし、私服は思いっきり実用性重視だし。華がないっていうか……。少なくとも男性受けはしない方なのに」

「それは、不特定多数の男には、っていう意味でしょう? でも、茜さんは僕の贔屓ひいき目ではすごく魅力的な女性に見えますよ。茜さんのことが好きな男だって絶対にいます」

「……どこに?」

「えーっと、それは……」

 彼の熱弁に水を差すように訊ねると、彼は困ったように答えに詰まった。でも、それはウソをついたからじゃないような気もする。ただ言いづらいだけという感じ。

「……ごめんなさい、やっぱりいいわ」

 何だか幼いたい気けな子犬をいじめたような気持ちになり、私の方がいたたまれなくなった。彼を困らせてしまったことを素直に謝ると、彼はキョトンとした顔をした。

「……少なくとも、僕は茜さんみたいな女性、好きですよ」

「…………えっ?」

「いえ、何でもないです。それじゃ、そろそろ駅まで送って行きますね」

「あ……、うん。ありがとう」

 彼はサラッと流したけれど、今のはなに? 私、しれっと告白されたような気がするのだけれど……。

 冴島くんが私に懐いているのは、私のことが好きだから……?

「……まさかね」

 口では「まさか」と言いながら、私は思わず外出の支度をしに寝室へ戻っていく彼の背中をじっと見つめていた。

   * * * *

 ――その後、私は冴島くんの車で東京メトロの六本木駅まで送ってもらった。五月の爽やかな朝の、短距離のドライブだったけれど、それだけでも助手席にいた私は妙に彼のことを意識してしまって落ち着かなかった。

「それじゃ茜さん、今日と明日はゆっくり休んで下さいね。僕はこれで。また来週」

「うん。……っていうか待って! あの、冴島くん? 昨夜のことは、できれば誰にも言わないでほしいんだけど……」

 私としては、自業自得とはいえこんなことで足元を掬われたくないのだ。酔い潰れて後輩の男の部屋に泊まり、あまつさえみっともない下着姿やスッピンまで晒してしまったのだ。これが私の弱点だと思われたら、年下や同期の女子社員たちからは「カッコいい女性」と言われている私のイメージダウンになるし、男たちから「これだから女はダメだ」と言われてしまいそうでイヤだった。

「言いませんよ、僕。言うわけないじゃないですか。茜さんを困らせるようなこと、僕がするわけないでしょう。僕も茜さんの〝カッコいい女性〟っていうイメージは守りたいですから」

「あ……、そう。ありがとう」

「はい。それじゃ、今度こそまた来週、会社で」

「うん、また来週」

 とりあえず、冴島くんが昨夜の私の失態を周囲にバラす心配はないらしいことにホッとした私は彼と別れ、メトロとJRを乗り継いで一人暮らしをしている池いけ袋ぶくろの賃貸マンションへ帰るのだった。

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